29:光の翼

マイメロのアニメはかなーーりシュールなので必見です。
あんな話も書いてみたいなぁ。



「ちっ、タイムリミットら……」

 軽く舌打ちし、シズナは誰に伝えるでもなくつぶやく。
 地下に封印しただけでは飽き足らず、魔力の使用には時間制限……。二重三重と忌々しい呪縛をかける教会の奴等はよっぽど暇らしい。行動の自由は手に入れたが、魔力制限に気づいたときのイラつきが蘇る。その教会のご丁寧な呪縛のおかげで、璃瑠黒衣はあと一歩だった獲物を飲み込むことなく消滅し、自身を守るように取り巻いていた風は開放されたかのように辺りを優しく流れていた。

 一方、双葉は平常心を装っているものの、死を感じた瞬間に体中を包んだ高揚感に戸惑いを感じていた。ささやかな抵抗を見せただけで飲み込まれる防御壁、寸前にまで迫る死の香り。確かにあの瞬間……、双葉は笑った。体に別の意思が宿ったとしか思えない、自分では理解も説明もつかない行動。

「お返しを……やられっぱなしじゃ……」

 ダメージを受けたわけでもないのに足がふらつき、よろける双葉。視界が歪み、誰かの声も風が草木を揺らす音も奇妙なエフェクトがかかり唯の雑音でしかない。

ドクン……

 体内のボリューム調節を誰かが間違えたかイタズラしたか、鼓動だけがやけに大きく鳴り響く。

キリサケ……

 ラジオのノイズのようなものに混じり、何かが言う。

チデ……カワキヲウルオセ……

 閉じた目に右手を当てた……はずであった。もうそれさえ感覚がない。

「あぁぁぁぁぁぁぁ!」

 双葉の悲鳴とも雄たけびとも判断し難い声が闇夜を切り裂く。吹き飛ばされた闇に変わって新たに登場するのは、無音で時の止まった世界。いや、現実にはそうでなかったかもしれないが、少なくともその場にいた者全てはそう感じた。背中から飛び出すように、主と同じ青い光の巨大な翼が羽を広げ、青い瞳は比喩ではなく淡い輝きを灯し、塞き止められた時間の波が一気に開放されたのを示すべく、時の濁流となりシズクへと襲い掛かる。
 その右手には既に“鎌”の形となりつつあるフォースナイトが握り締められ、黒いキャンバスに新たな青い直線を描いていた。

「とっ、とんでもないのが飛び出たが……説明しても聞こえなさそうら……。フォルス!」

 元々その場にいたか召喚でもされたかと思わせる唐突な登場をしたフォルスは左腕でひょいっとシズナを抱えあげると、姿勢は双葉の方を向いたまま後方へ素早く飛び跳ねる。目の前をかすめるフォースナイトの刃によって前髪の一部を切断されたにもかかわらず、相変わらずの緩い表情をしているフォルスには速さのあまりフォースナイトが見えていないのではないかと思いたくなる落ち着き様であった。
 もちろん、双葉も空中に銀髪を舞わせるという映画か何かの演出をするためにフォースナイトを振るったわけでもなく、いわばフォロースルーの状態にある鎌を左手に託し、すぐさま作り出した魔法陣から無数の閃光を撃ち出し追撃する。一連の動き、魔法陣を形成する早さ、撃ち出される魔力、どれをとっても普段の双葉とは桁違いであった。
 それを実証するように、地面へ突き刺さる閃光は轟音と共に庭にいくつものクレーターを作り出し、標的の姿を覆い隠してしまう広範囲の土煙は霧と呼ぶに相応しい勢力の拡大を見せている。

「こんな双葉、はじめて見たぜ……」

 伊吹には無表情で獲物を見据える双葉は全くの別人に見えたし、背中の翼の存在さえ本人から聞いたこともなかった。
 そして決して伊吹を満足させるためではないが、半分だけだった表情を全て見せる双葉。両方の瞳で伊吹を見つめる表情は、予想できたとはいえ冷たく感じられた。
 その刹那、双葉のレアな表情の鮮明度が跳ね上がる。
「そんなことないっ! いつもと一緒だ、ほら」

 ……なんて期待を1%でもした伊吹に対し、運命の女神が出したカードは“襲い掛かる”という破り捨てて燃やしてしまいたいであろうものであったが。

「嘘だろ……双葉鬼がこっちにきた」

 意識ある双葉がこれを聞けば同じ結果になるだろうと、運命の女神の反論が聞こえてきそうである。

テーマ : 自作小説(ファンタジー) - ジャンル : 小説・文学
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