7:解散

風邪でどうにもなりません。


「ほう、これはこれはリスドール殿ではないか。こんなところにおられるとは、道にでも迷われたか?それに貴女に命令されるとは。この通り大量に出血しているので、部下になった記憶が消えてしまったらしい」
「あ゛ぁ? 直接の上官じゃないから、命令は聞かないっていうわけ?」

 二人とも表面上は穏やかな顔をしているが明らかに挑発的な態度であり、ピリピリとした空気が張り詰めるが、我に帰った双葉が伊吹の元へ駆け寄るのを見ると、彼人は右手に持った剣をしまいふうっと大きなため息をつく。左手は双葉の一撃による負傷でだらりと力なく下がり、指先からは流れてきた血がポタポタと床に滴り落ちていた。

「こうギャラリーが多いと興も冷める。それに、そちらのお嬢さんは……そう“久遠の刹那”ファインハルスか。一度会いたいと思っていたところだ」
「ウィステリア……」

 彼人の視線はリスドールの隣で静かにじっとしている少女へ移り、いわゆる“使用された真祖”の名前で呼ばれた少女は、無表情のまま否定するように小さく自分の名前を言った。その小さな声が聞き取れたかどうかはわからないが、彼人にとって興味が無いことは確かである。
 クロセルにより創り出された3番目の少女、それがこのウィステリアであり、双葉が誕生したときは既にリスドールの元にいたので、二人が同じ場所にいるというのは初めてであった。そしてウィステリアのメイド服は、制服でもなければ自主的に着ている訳でもなく完全にリスドールの趣味であり、本人も別段嫌なこともなかったのでおとなしく受け入れている。過去に一度だけ、よくある魔法少女の服だけは断ったことがあるのだが……。

「この子はウィステリアっていうのよ。いいかげん、仲間を連れてさっさと引き上げな」

 リスドールは、ウィステリアの頭をぽふっと優しく撫でながらそう言うと、再度彼人に睨みを効かせる。それには何も答えずに、ゆっくりと双葉たちの方へ歩き出した彼人は途中で宙を仰ぎ、大声を出す。

「ひぃなたぁぁーーーー!!」

 その声に反応して、寝起きを叩き起こされたかのように焦った表情をこれでもかと浮かべながら、二階へ続く階段をバタバタと黒髪の女性が降りてくる。その姿は彼人と同じデザインの軍服を着ていたが、下は女性用なのかタイトなミニスカートになっており、慌てて走ってくる光景はあまり格好のいいものではなかった。髪型がショートのせいか、それとも仕草のせいなのか、ひなたと呼ばれたその女性は18歳という実際の年齢よりもやや幼く見える。

「はいー! 呼びましたー?」
「お前、結界も満足に張れないのか」
「ちゃんとやってましたけど、あの二人は無理ですよ! 破るんじゃなくて、すり抜けられるなんて初めてだし」

 不満そうにふくれっつらでそう説明をするが、彼人はその前を素通りして伊吹の側までスタスタと歩いていく。

 双葉が駆け寄った時にはやはり伊吹の意識はなかったが、手を頬に当て小さく呼びかけるとかろうじて意識は戻っていた。とはいうものの、突き刺さったままの剣は双葉が触れただけで焼けるような激痛が走り、どうすることもできないままである。そんなものはお構いなしに強引に引き抜こうともしたが、伊吹が首を振って制止したので今回はおとなしくそれに従っている双葉だった。白い剣は真っ赤に染まり、床に溜まった血が双葉の服をも染めていたが、気に留める様子もなく伊吹に寄り添う。

「よう、何だそのボロボロな格好は。セクシーさを狙ってるなら無駄だからやめとけ」
「串刺しの伊吹に言われたくないのだ。今度、思いっきり色っぽいの見せてやるから覚悟しとくといいぞ」

 伊吹は真っ青な顔色でかすれそうな声を出し、双葉は目に涙を浮かべつつそんな会話をしていると、彼人の近づく足音に気づき双葉の表情が強張る。既に場の張り詰めた空気は薄れ、再び攻撃してくる様子も見られないがその赤い瞳から向けられる敵意を考えると警戒せずにはいられなかった。無力な自分に相当我慢が出来ないのであろう、音が聞こえてきそうなほど歯を噛みしめる伊吹。
 しかし彼人は平然と近寄ると乱暴に剣を引き抜き、マントの奥に収めながら伊吹を支える双葉を見下ろす。

「また近いうちに会おう、冥府の裁断」

 口元を上げそう言い放つと、マントを翻し入り口に向かって同じ歩調でまた歩き出し、それを見たひなたも慌ててその後ろへと続く。歩いた後には血の道が点々と出来ており、彼人に気遣う声をかけるひなたに対し、うるさいという表情だけで答えていた。
 ひなたは彼人と行動を共にするようになってから数年が経つが、実践に参加したことがない。指示されるのは決まって今回のような支援や雑用であったし、それが不満で直訴したこともあるが当然のごとく聞き入れられる訳がなかった。どれだけ負傷して窮地に陥ろうとも、呼ぶまで出てくるな。それが鉄則であり、破れば二度と連れてはいかないという罰則も言い渡されている。

 そして入り口のリスドール達と無言ですれ違おうとしたとき、彼女が声をかける。

「お前はどうせ懲りないだろうからね。次は私とやるかい?」
「ふんっ、敵より内部の反乱者を葬った数のほうが多いという元処刑師殿も、今や幹部の一員。そういうことを軽々しく言うものではないのでないか? それに、私は貴女に興味がない。隣のお嬢さんの相手であれば、いつでも喜んではせ参じましょう。先ほど邪魔されたお返しをしなければならぬからな」

 そう言うとそのまま雨の降りしきる闇の中へ、二人は消えていった。
 心配そうにウィステリアを見つめるリスドールだったが、当の本人は相変わらずの無表情であり、「らしいな」と思わず和んでしまうのであった。


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テーマ : 自作小説(ファンタジー) - ジャンル : 小説・文学
この記事へのコメント
みうみうさんの所から飛んできました〜
また読みに寄らせていただきますね(@w@b
血風(改) | URL | 2008/02/07/Thu 00:14 [EDIT]
いらっしゃいませ!
風邪でお返事遅れました、げーげー。
完全復活までもうしばらくお待ちくださいませっ。

駄文を読んでいただきありがとでしたーヾ(* 'ヮ')ノシ
兎和 | URL | 2008/02/08/Fri 07:47 [EDIT]
お邪魔してます。
どうも。玖堂です。
面白いですねー。もっと続き読みたいけど時間がe-330
それでも最近は度々お邪魔させて頂いており、なんとかここまで読んだんですが(←遅い)。

なんか最近、疲れているのか集中が出来なくて。。

と勝手ながらですが少し長々とお話させて頂きました。
文章も巧く、とても読み易い上に内容の方も面白いので是非頑張って頂きたいです。
よろしければまた来させて頂きますね!! 玖堂でした。
玖堂 匡介 | URL | 2008/03/16/Sun 23:41 [EDIT]
>玖堂 匡介サマ
こんばんはー♪
長いなんてとんでもないっ。読んでいただいてありがとうございますっ。
兎和はコメントもお返事も思ったコトの半分もかけないので……。
もっともっと楽しんでいただけるように、全開でいきますのでどんどこいらしてくださいませー。
兎和 | URL | 2008/03/17/Mon 02:52 [EDIT]
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