5:粛清

早い流れがどうにも止められない、うーん。

以下、本編どすん。



 ヴァンパイアを狩る者として、にわかの下品なヴァンパイアが許せないのだろうか。
 それとも自分自身がヴァンパイアを基にして生まれてきたからなんだろうか。
 いくら言い訳したって、所詮は自分もヴァンパイアという存在なんじゃないか。
 そうじゃない?
 人間ではない。ヴァンパイアでもない。
 それじゃ何者なんだ。
 自分という存在を括るカテゴリはなんだ。
 教えて……。
 何故、何も伝えずいってしまったの。
 何故、心があるの。
 一言だけ褒めて……その言葉だけで満たされるはずなのに……

「おう、終わってたか。さすがに早いな、お疲れ様っ」

 ふいに背中をぽんっと叩かれ、双葉は現実に引き戻された。まだ合羽に残っていた水滴が更に細かくなって宙を舞う。

「あ……、伊吹」
「なんだ? いつもみたいに、あたりまえだっ! とか子供扱いするなっ! とか言うかと思ったけど。まさか、どっか怪我でもしたか?」
「う、うるさいっ。私は可憐な少女なのだ! おしとやかなときだってある!」
「幽霊が怖くて泣いてないか心配したけど、ぜーんぜん平気だったみたいだな」
「怖くないし、泣いてもないっ! 伊吹のばーか! ばーか!」
「ははっ、そんだけ元気があれば大丈夫だ。よくできましたっ」

 合羽のフードは脱げていたために、直に髪の毛をぐしゃっとされて手荒く頭を撫でられる。伊吹いわく「身長差のせいで、丁度撫でやすい位置にある」らしい。そしていつも双葉は、決まって照れてしまい「ありがとう」という言葉を飲み込んでしまうのであった。
 その洗礼をひとしきり浴び、ぼっさぼさになってしまった金髪をリボンで結びなおしながら伊吹の方も終わったという会話をする。先ほど受けた伊吹の傷はすっかりふさがっていたが、白いシャツには出血の痕が所々ついており、平気だとわかっていても痛々しいなと双葉は毎回思っていた。
 元々人間でありクロセルの初めての成功例にも係わらず、回復力や身体能力でいえば双葉たちを上回るかもしれない伊吹。その目的が双葉たちを“創る”ためにその基となるヴァンパイア、それも真祖を狩ることだったにしても強化の度合いは凄まじい。何故、伊吹に使った技術がありながら新たに一から生命を生み出すといったことをしたのか。どちらが人道的に正しい選択であるかという議論とは別に、その点も謎な一つであった。

「いつまでもこんなところにいたら本当に幽霊が出るかもしれないし、暖かい我が家へ帰るとするか。お気に入りのベッドもあることだしな」
「あ、やっぱり欲しいのだろう!」
「欲しくないっ! 帰ったらちゃんと隅っこに押しのけた物を片付けるんだぞ」

 ほっぺたを膨らませて抗議をする双葉だったが、そんな訴えは却下だとばかりに見下ろす伊吹。

「あーあー、わかったのだ」と仕方なく返事を返そうとしたとき、それはあまりにも唐突で衝撃的な光景を目にすることで中断された。
 石を切り裂く大きな衝突音が響き、それに混じり僅かにこぼれる伊吹の小さな呻き声。鋭角に伊吹の体を背中から貫いたまま、石の床に突き刺さる白くやや幅広な刀身の剣。全てが一瞬の出来事であった。

「伊吹!!」

 悲鳴に近い叫び声をあげ、駆け寄る双葉。普段であればこの程度の傷は何ともないのであるが、伊吹の表情からそうではないことは明白であり、それが双葉の冷静さを失わせる。
 事実、ダメージがあった。おかしな表現だが、普通の人間なら感じるであろう痛みを受けていたし、物理的な力以外の拘束力も感じていた。

「完全な祓魔師でないお前に、聖なる言葉が刻まれたその剣は抜けまい」

 階段からゆっくりと降りてくる男は、金色の長髪で整ってはいるが冷たい印象を与える顔立ちに独特な黒の軍服を着ており、その上には襟の大きなマントのようなものを羽織っていた。
そして赤く冷たい瞳は冷徹さを象徴しているようである。

「何だ……お前」

 首をひねり、辛うじて見えるその男に向かって殺気を込めた声を出すが、男はそれに怯む様子も無くマントの下から白い剣と全く同じデザインの刀身が黒い剣を抜き、頭上から剣先を斜め下に向け構える。

「帝国祓魔座、彼人(かのと)。白き剣は神聖なる光の戒め、黒き剣は闇を切り裂く裁きとなる。さぁヴァンパイアよ、恐怖に慄け、邪悪な自分の存在を嘆け。安心しろ、すぐにこの世界から全てを消し去ってやる」

 低く構えた姿勢のまま、疾風のような動きで双葉へ一直線に突っ込んでいく彼人。串刺しで動けない伊吹は慌てて始末することもないといったところだろう。突然のことで立ち尽くす双葉までの距離を一瞬でつめる。

「何でっ!?」

 喋る暇などある訳もなく、振り下ろされる黒い剣に対して右手をかざし青い光の魔方陣で防御を張る。しかし、キィィンという音と共に剣の軌道に沿って綺麗な直線で切断され、滑るようにずれていく魔方陣。

「闇の術など、私の前では無に等しい!冥府の裁断よ、お前の力はそんなものではないだろう?姿だけでは飽き足らず、その力までも失望させるようなことは許さんぞ。存分に力を発揮しろ、そして私を楽しませろ!」


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テーマ : 自作小説(ファンタジー) - ジャンル : 小説・文学
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| | 2008/02/01/Fri 22:15 [EDIT]
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| | 2008/02/03/Sun 20:51 [EDIT]
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